東京地方裁判所 昭和59年(ワ)2000号 判決
原告
株式会社マルモ産業
右代表者代表取締役
石塚茂
原告
関口清
右両名訴訟代理人弁護士
舎川昭三
被告
遠州観光株式会社
右代表者代表取締役
中村慶三
右訴訟代理人弁護士
田中英雄
右訴訟復代理人弁護士
松丸幸子
主文
被告は、原告ら各自に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和五九年三月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 被告は売り手として、株式会社日建実業(以下「日建実業」という。)は買い手として、それぞれ、原告両名に対し、相当の報酬を支払うことを約して、土地の売買の仲介を申込み、原告両名はこれを承諾した。
2 原告両名の右約定に基づく仲介により、昭和五八年二月二六日、被告と日建実業との間で、被告の所有する東京都板橋区西台二丁目一六九四番地所在雑種地三四〇平方メートル(以下「本件土地」という。)につき、次のとおり売買契約が成立した。
売買代金四四二〇万円
その支払方法
(1) 契約成立と同時に違約手付金として二〇〇万円
(2) 同年三月一五日までに中間金八〇〇万円
(3) 同月末日までに、本件土地の引渡及び所有権移転登記等の手続の完了と引換えに残金三四二〇万円
3 被告と日建実業は、右契約締結に際し、原告両名に対し、本契約の解除又は不履行の場合、違約金を取得した者は、その十分の五を仲介手数料として原告両名に支払う旨約束した(以下「本件合意」という。)。
4 被告は、日建実業が期日までに右中間金を支払わなかつたため、右売買契約を解除し、手付金二〇〇万円を違約金として取得した。
よつて、原告らは各自、被告に対し、本件合意に基づき、仲介手数料一〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五九年三月四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
1 請求原因事実は認める。
2 被告は、現在、日建実業から手付金返還請求の訴え(東京地方裁判所昭和五八年(ワ)第九三三六号)を提起されているので、違約金を確定的に取得しているとはいえない。右訴訟で被告の勝訴が確定しない以上、本件仲介手数料の支払義務は生じない。
第三 証拠〈省略〉
理由
一請求原因事実は、すべて当事者間に争いがない。
二そこで被告の主張について判断する。
1 〈証拠〉を総合すれば、本件仲介にかかる売買契約において、売主である被告は、「本件土地の擁護壁工事に関し、周囲の関係者の承諾書を得ること」等の附随的義務を負つていた(但し、同義務の履行期は契約上明らかでない。)こと、被告が中間金支払時期までに右附随的義務を履行しないため日建実業が中間金の支払いをしなかつたところ、被告は右売買契約を解除し、手付金を違約金として取得したこと、日建実業は、逆に、被告の右附随的義務の不履行を理由として右売買契約を解除し、手付金返還請求訴訟を提起しており、もし、被告がこの訴訟で敗訴すれば、手付金の倍額である四〇〇万円の支払義務が生ずること、以上の事実が認められる。
2 右の事実によれば、被告が違約金を確定的に取得したものということはできない。
3 しかしながら、〈証拠〉による本件合意の内容は、「仲介者の報酬は契約成立のとき半額、取引完了のとき残額を支払うものとする。売主又は買主のいずれかが本契約解除又は不履行の場合、特約のないかぎり違約金を取得したる者より仲介手数料として十分の五を仲介者に支払うものとする。但し成立の場合の規定の手数料を超えないものとする。」というものであつて、本件金員の実質は売買契約成立をもたらしたことに対する仲介の報酬であり、売買契約の当事者の事情による契約解除、又は不履行の場合にも、仲介人に対する報酬の支払を約束するものであることが明らかである。
そうであるならば、後日、違約金取得者が売買契約の相手方に対し違約金支払義務を負うことになつたとしても、その間の利害は右当事者間で調整すべきものであつて、その法律的に不安定な状態による不利益を仲介者に転嫁することは許されないものというべきである。現段階における違約金の取得者である被告において、右取得が法律上確定的でないとしても、そのことを理由に、違約金取得を原因として発生すべき仲介手数料の支払義務を免れることはできないと解するのが相当である。被告の主張は理由がない。
4 よつて、被告は原告らに対し(連帯債権)、取得した二〇〇万円の一〇分の五である一〇〇万円を支払うべき義務がある。
三以上により原告らの請求を認容し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官大城光代)